佳作(小学生部門)「本当の意味で生きていく」 6年 奥村晏
「ちらし寿司作るから食卓に上がってきて。」祖母の声に、私はゲームをしていた手を止める。
このコロナ禍で学校は休校。けれど、両親は共働きなので私は祖父母の家に疎開していた。私はせっかくの休みを満喫し、いつも勉強から逃げてゲームに夢中になっていた。
ちらし寿司、か。そういえば最近食べていなかった。本当はゲームをしていたかったが、ゲームをしすぎて椅子に根を生やすのもどうかと思ったので私は階段を上った。
「桶にご飯とお酢と砂糖と塩、入れといたから、切って具を入れてちょうだい。」
祖母の声に従って、ご飯を切っていく。次は具材となるキュウリとシャケを混ぜていった。白い野原に花が咲いたようになった。
ちらし寿司のつんとした匂いが漂う。その匂いを嗅ぐと我慢ができなくてついちらし寿司の味見をしてしまう。一度味見をしてしまうと自分では止められなくなる。また一口、もう一口と…手を伸ばす。もう一口、十口目と手を伸ばそうとすると、祖母が優しく
「もうやめようか。」」
と私の手を阻む。私はハッと我にかえる。見ると、ちらし寿司は元の量の半分くらいになっていた。こんなに食べたのに気づかない自分に私はおかしくなって笑ってしまった。
つまみ食いができるときは祖母や祖父、家族がいる。なんでも前向きに考えられる。しかしどうだろう。つまみ食いがしたいとも思わないのは独りの時。何もかも気が進まない。
家族や仲間がいて、つまみ食いができる時のご飯は私にとっての元気ごはんだ。また独りの時のご飯は私にとって栄養を補給するだけのモノだった。人はただ食べていくだけでは本当の意味で生きていけず、家族や仲間と食べる「元気ごはん」で本当に生きている、と普段なら気づかなかったことを、ふと思った。私だけじゃなく全世界の人が、今この時も元気ごはんで生きていることを想った。