今年度も4年生以上の全員が、WFPチャリティーエッセイコンテストに応募しました。作品を応募すると、1作品につき途上国の給食3日分にあたる90円が協力企業により寄付される仕組みとなっています。作文を書くことが、支援につながるのです。子どもたちにもできる支援です。カリタス小学校では、15年以上、このコンテストに応募しています。
その中から、2人の作品が入賞しました。心温まる文章をお読みください。
小学生部門賞「受け継ぐ母の味」 6年 吉田美緒
やさしくてあまーい香りが、玄関ドアのすき間を通り抜けて、母よりも一足早く、私を「おかえり」と迎えてくれる。牛乳とパンの香り。でも、バターの香りはしないから、フレンチトーストじゃない。お母さんのお母さんのお母さん-私のひいおばあちゃんから続く味、パンプディングだ。ドアが開くと、母の笑顔と一緒に、パンプディングの優しい香りに、私は包まれた。
「ひいおばあちゃんの時代には電子レンジなんてなかったでしょ?おばあちゃんの時もレンジにスチーム機能は付いていなかったから、ずっと蒸し器で作ってたんだよ。」
パンプディングを作る度に、毎回その話をする母も、レンジもオーブンも使わず、おばあちゃんたちと同じ様に、蒸し器でパンプディングを作り続けている。その理由を聞いたことはないが、私は最近分かってきた。
「蒸し器で作った方が美味しいから?」
多分、そんなに変わらないだろうから違う。
「蒸し器の方がふんわり仕上がる?」
それはあるかもしれない。でも、理由はそこではない。
私にとって、母の味は何だろうと考えた時、それは、決して味の記憶だけではないことに気付いた。湯気と共に家中に広がる、牛乳と卵のあまーい香り。蒸気がお鍋の蓋を押し上げて、カタカタ鳴らせている音。そして、立ち昇る湯気の向こうでほほ笑む、母の姿。
母も祖母も、きっと、この香り、音、温かい空気を、ずっと大切に受け継いで来たのだ。
二十年後、三十年後、生活は今よりももっと便利になっているだろう。それでも、私はきっと、相も変わらず、蒸し器をカタカタ鳴らしていることだろう。
湯気の向こうから、「ご名答ー」と、ひいおばあちゃんの声が聞こえたような気がした。
佳作(小学生部門)「おばあちゃんのお届けもの」 4年 野村虹七
八月七日、寝ている間に大雨が降った。二階に降りた母の叫び声が聞こえた。私は慌てて階段をかけ降りた。眼に映ったものは、水浸しのダイニング。呆然とした。母がタオルを取りに一階に降りると、また叫び声が聞こえた。父の書斎も洗面所も水浸しだった。
私達は雑巾で床を拭き続けた。ずっと終わらないかと思った。いろんなものが濡れた。父の書類、ラグ、ソファ、掃除機、ピアノの楽譜、椅子、テーブル…。何日もかけて掃除した。拭いても乾かしてもだめなものはゴミ袋に入れて捨てた。十二袋になった。
母はその日から雨の音を聞くと心配で眠れなくなった。食欲も無くなり、どんどん元気がなくなっていった。キッチンもしばらく使えず、ご飯を作ることもできなかった。そんな時に祖母がちらし寿司を作って来てくれた。錦糸卵がたっぷりのっていて、鮭と白胡麻も混ぜてあった。甘酸っぱくてシャキシャキした真っ白なれんこんも入っていた。小さなびんも入っていた。家族みんなでこれは何だろうと首をかしげながら、食べてみた。
「すっぱーい。」
びんには千切りしてお酢を漬けた新生姜が入っていた。それまで食欲の無かった母はバクバク食べた。みんなおかわりをした。すっぱいものが苦手な私も夢中で食べた。食卓に笑顔の花が咲いた。久しぶりに声を出して笑った。びんの中身はあっという間になくなった。
次の日、祖母に電話をかけ、とっても美味しかったこと、おかわりもしたこと、元気が出たことを伝えた。祖母は、
「わざわざ電話をしてくれてありがとう。」
と嬉しそうに何度も言った。
元気を出してほしいと心を込めて作ったご飯には思いが詰まっていて、本当に人を元気にすることができるんだ。そして、感謝の気持ちを伝えると、作ってくれた人も幸せになれるんだと分かった。おばあちゃんに作り方を聞いたから、今日は私が作るね、お母さん。